AIコラム

AIがどんどん賢くなって、「もう人間いらないんじゃないか」なんて思うこともありますが、実はAIにも原理的に苦手なことがあるんです。最近のAIは性能が向上して、以前ほどではありませんが、それでも基本的な特性は変わりません。その弱点を理解すると、AIとのより良い付き合い方が見えてきます。
AIがどうやって文章を理解しているかご存知ですか?実は、AIは膨大な文章から「言葉同士の関連の強さ」を学習しています。
例えば、「犬」という言葉が出てきたら、その次には「散歩」「かわいい」「ペット」「しっぽ」といった関連の強い言葉が続きやすいことを覚えているのです。そうやって、言葉のつながりのパターンを膨大に蓄積して、次に来る言葉を予測しているんですね。
この仕組みは多くの場面でとても有効ですが、同時に大きな弱点も生み出しています。
AIは関連する概念の連鎖で予測を行うため、「関連しない」ということを明示的に学習していません。そのため、否定表現や例外的な状況を正しく理解するのが苦手なのです。
肯定形の場合
「犬は散歩が好きです」 → 犬→散歩→運動→外出→楽しい、という関連概念の連鎖が明確 → AIにとって予測しやすい
否定形の場合
「犬は散歩が好きではありません」 → 関連しない概念は無数にある → 何を選ぶべきか不明確で、予測精度が低下
つまり、AIは「あるもの」を理解するのは得意だけれど、「ないもの」「そうでないもの」を理解するのが原理的に苦手なのです。最新のAIでは、チューニングによってこの問題はかなり改善されていますが、それでも基本的な特性として残っています。
この特性のために、時々AIは以下のような場面で期待通りの結果を出せないことがあります。もし否定形の指示でうまくいかないときは、この原理的な特性を思い出してみてください
例外的な状況
「通常は〇〇ですが、△△の場合は違います」といった例外パターンを見落としやすい傾向があります
否定的な条件
「〇〇以外」「〇〇を除く」「〇〇でない場合」といった除外条件で、意図と違う結果が出ることがあります
抜け漏れのチェック
「他に考慮すべき点はありませんか?」といった、関連しない可能性のある要素を見つけるのが苦手です
この弱点を補う効果的な方法があります。それは、「MECEなロジックツリー」を事前に作ってからAIに作業してもらうことです。
MECEとは?「Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive」の略で、「漏れなく、ダブりなく」という意味です。つまり、すべての可能性を網羅しつつ、重複がない状態のことです。
具体的な手順
・まず全体像を整理する 「〇〇について考える際の要素を、漏れなく分類してください」
・構造化して確認する 「それぞれの分類に、さらに詳細な要素はありませんか?ツリー形式で整理してください」
・抜け漏れをチェックする 「この分類で全体を網羅できていますか?見落としている観点はありませんか?」
・各要素を検討する 全体像が整理できたら、それぞれの要素について詳しく検討してもらう
従来のやり方(あまり良くない例)
「新商品の企画について考えてください」 → AIは関連の強い一般的なアイデアを提案するが、重要な観点を見落とす可能性
改善されたやり方
この方法により、AIが自然には思いつかない「そうでない場合」「例外的な状況」「見落としがちな要素」も体系的に検討できるようになります。
プロジェクト管理
マーケティング戦略
品質管理
AIの「つながりで理解する」という特性は、多くの場面で私たちを助けてくれます。でも同時に、「つながらないもの」「そうでないもの」を認識するのが苦手という弱点もあります。
この弱点を理解して、MECEなロジックツリーで全体像を整理してからAIに作業してもらうことで、より精度の高い、実用的なアウトプットを得ることができます。
どうしても否定形で指示を出さざるを得ない場面があります。そんなとき、AIが期待通りに動いてくれない場合は、この原理的な特性を思い出してください。否定形とそれを表す肯定形表現の両方を記述すると、うまくいくことがよくあります。
あまり良くない例
「カジュアルすぎない文章で書いてください」
改善された例
「カジュアルすぎない文章で書いてください。つまり、丁寧語を使い、専門用語も適度に含め、ビジネス文書として適切な格調を保った表現にしてください」
別の例
「子供向けではない説明にしてください」
↓
「子供向けではない説明にしてください。具体的には、大学生以上の読者を想定し、専門的な概念や複雑な論理構造も含めた、知的で深みのある内容にしてください」
このように、「〜ではない」という否定形に加えて、「では、何なのか」を肯定形で具体的に説明することで、AIがより正確に意図を理解してくれるようになります。
完璧なAIなど存在しません。でも、お互いの得意・不得意を理解し合って補完し合えば、AIは私たちにとってより頼りになるパートナーになってくれるはずです。
明日AIに何かを相談するとき、「まず全体像を整理してから」という一手間を加えてみてください。否定形の指示が必要な場合は、「肯定形での説明も併記する」ことも試してみてください。
きっと、いつもより網羅的で実用的な答えが返ってくることに驚かれるでしょう。
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著者:林 栄一
(林せんせい)
株式会社SHIFT「ヒンシツ大学」クオリティ エヴァンジェリスト
組織活性化や人材開発において豊富な経験を持つ専門家として、人材と組織開発のリーダーを務め、その後、生成AIを中心にスキルを再構築し、現在新人研修プログラムや生成AI講座開発を担当している。2008年にスクラムマスター資格を取得し、コミュニティーを通じてアジャイルの普及に貢献。勉強会やカンファレンス、最近では生成AI関連のイベントに多数登壇している。チームワークの価値を重んじ、社会にチームでの喜びを広める使命をもつ。